福田尚代|日な曇り
YOKOTA TOKYOでは、福田尚代の当ギャラリーでの初個展となる「日な曇り」を開催いたします。
福田尚代は、紙、糸、本、文房具といった日常的な素材に、書く、縫う、消す、読むといった行為を繰り返しながら作品を生み出してきました。ことばになる以前の「かたち」をすくい上げるように折られ、ほぐされ、削がれ、綴じられたものたちは、記憶の底にたゆたう気配や、過ぎ去った時間を内包しながら、目に見えるものとは異なる位相で立ち上がってきます。
展覧会タイトルでもある「日な曇り」とは、やわらかな光が差し込みつつも、空に薄く雲がかかった、晴れと曇りのあわいにある気象を表す言葉です。その微かな明るさと翳りが共存する空気感は、福田の作品世界とも深く呼応しています。
自然光が差し込むギャラリー空間では、福田の作品の繊維や痕跡、糸の揺らぎといったディテールを、静かに浮かび上がらせます。消えゆくものへのまなざし、あるいは記憶の襞に寄り添い、降り積もる光の粒を追うような福田の作品と向き合う時間は、ものを見ることや感じることへの原初的な在り方を呼び覚ますでしょう。
本展は、書物の記憶を宿すもの、漂う断片、ことばの影をとどめたかたち、静謐な気配など――― 福田の創作に通底するこいくつかの造形を、空間に織り込む試みでもあります。
目に見えるものの奥にひそむ気配が、ギャラリー空間で静かに立ち上がることを願っております。